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アジア各国の中央銀行はFRBの利下げに追随するか?

米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げをした中、アジア各国もそれに追随するかを考察し、また地域に与える潜在的影響について評価します。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

インフレが緩和する中、FRBは利下げを開始しました。しかし、利下げのペースと規模は、労働市場の状況と経済の力強さ次第かと思われます。米国が引き締め的な金融政策から緩和的金融政策へ移行するのをきっかけに、アジアの一部中央銀行にも利下げ余地が生まれる可能性があります。

ほとんどのアジア市場は、FRBに追随して金利を引き上げてきました。その結果、通貨は安定、または破滅的な下落は回避され、投資家のセンチメントは下支えされました。FRBが再び方向転換しようとしている今、アジア各国の中央銀行はそれに追随するか、場合によっては金利を据え置く可能性もあります。とはいえ、各行は慎重に事を進める必要があります。金利はインフレを抑制し、通貨を安定させる程度に高くなければならず、しかし、経済活動を妨げるほど高くてはいけません。

アジアの中央銀行は、金利を引き下げる公算が大きい

アジアの中でも、国によって金融政策は異なります。フィリピンはインフレ率が比較的高止まりしているにもかかわらず、既に利下げを開始しています1。次に利下げに踏み切るのは、タイと韓国が有力です。タイは最近の政権交代により見通しはやや不透明になっていますが、タイ銀行(中央銀行)は2.5%の足元の金利水準が中立的であるとみています2。インフレは十分に抑制されていることから、政局が安定して経済データが良好と判断されれば、政策決定者は利下げを検討する可能性があります。

韓国銀行(中央銀行)は、インフレが抑制されており、また3.5%の足元の金利が経済的に引き締め的な水準と考えられるため、将来的に利下げを検討することを示唆しています3。不動産市場の過熱に対する国内の懸念も中央銀行への圧力となっており、金利が低下すれば不動産価格が一段と上昇する恐れがあります。

マレーシア国立銀行は、金利を3%で据え置くとの見通しを示しています4。経済は比較的堅調に推移しており、インフレは抑制されています。しかし、通貨の安定が重要な懸念事項です。マレーシア・リンギットは2024年2月に対ドルで26年ぶりの安値を付けましたが、ここ数カ月は回復しています5

中国は独自の道を切り開く

中国の状況は他の多くのアジア市場とは異なり、経済規模と資本規制の点で、必ずしもFRBの金融政策に追随する必要はありません。その代わり、中国人民銀行はインフレよりもデフレに重点を置いています。金利は引き下げられ、他の政策変更も経済を刺激するために、貸し出しを促進しています6。消費者や企業は、いずれもっと安く買えるようになると考えて支出を控えているため、デフレが強まる可能性があります。最近のデータを見ると、消費者物価指数(CPI)はわずかにプラスですが、生産者物価指数(PPI)はマイナスが続いています7

中国の不動産セクターも、一部の地域で価格の下落が起きています。中国では、富を蓄えるための手段として不動産を活用する傾向があるため、不動産価格が下落すれば財産が目減りし、人々の消費意欲の低下につながる可能性があります。こうした課題にもかかわらず、中国経済は2024年に5%前後の成長が見込まれています8

インドの力が増大

インド経済は急成長していますが、物価上昇が依然として課題となっています。コアインフレ率は抑制されていますが、食品価格は上昇しており、インド準備銀行は6.5%で金利据え置きを余儀なくされています9。食品関連のインフレは、他の商品やサービスの価格上昇に無頓着な人でも気づきやすいため、政治的にデリケートな問題です。インドの金利は他のアジア市場と比べると高く見えるかもしれませんが、インフレ率が5%付近で推移し、2024年の予想経済成長率が8.2%であることを考えると、過度に引き締め的とは言えません10

インドの成長を下支えしているのは、大規模で比較的若い労働力、中間層の増加、構造改革、グローバル・サプライチェーンへの統合改善、事業環境の改善です11。最近の世界銀行のレポートによると、さらなる成長への見通しは依然として明るく、貿易障壁が撤廃されれば改善の余地があります12

外国人投資家が一部の市場に戻っている

今年、マレーシア・リンギットの回復をきっかけに、外国人投資家はマレーシアの国債および現地通貨建て社債の保有を引き上げました。マレーシア国立銀行の推定によると、外国人投資家はマレーシア国内で発行された債券全体の20%を保有しており、2024年7月だけで17億5,000万ドル相当を購入しました13。アジアの他の多くの市場でも海外から同様の資金流入が見られ、インドには2024年7月に26億8,000万ドルが流入しました14

米国のソフトランディングは、アジア市場にとってプラス材料

FRBが景気後退を回避するのに必要なペースと規模で利下げを実施するかどうかは、まだ分かりません。最近のデータは労働市場の軟化を示唆しており、FRBが指標とするインフレ率は2.5%と、同行が目標とする2%をわずかに上回っています15。FRBが経済をうまくソフトランディングさせることができれば、世界の貿易水準は安定的に推移し、グローバル・サプライチェーンに組み込まれているアジア市場にとってプラスとなるはずです。

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