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アジア債券の見通しが引き続き明るい理由

金利動向やインフレに関する懸念にも関わらず、2024年後半のアジア経済ならびにアジア債券市場は、良好なパフォーマンスを示すとみられます。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

2024年前半を通じてアジア債券のパフォーマンスを左右し続けたテーマの1つが、米国金利の軌道に対する見通しです。市場は、年初の段階では年内数回の利下げを予想していたものの、米国経済の底堅さを示すデータやしつこいインフレにより、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げサイクルの開始を先延ばしする形となりました。

しばしば用いられる「より高く、より長く」という言い回しは、足元の状況に間違いなく影響を与えています。米国金利の上昇をアジアから見た場合、一部のアジア諸国では、金利の引き下げ余地を制限するものとなります。金利の引き下げが自国通貨の価値を下落させ、インフレの引き金になることで、投資家から見た相対的な市場の魅力が低下する可能性があるためです。

一方、欧州中央銀行(ECB)1やカナダ銀行(中央銀行)は、既に利下げサイクルに入っています。FRBもいずれは利下げに踏み切り、その動きにアジア諸国の一部も追随すると予想されます。その結果、アジア債券の魅力は高まり、社債の発行も大幅に増加するでしょう。それはまた、経済成長を後押しする可能性もあります。

強い米ドルがアジアに及ぼす影響

米国経済が好調なパフォーマンスを維持し、利下げが先送りされる中、米ドルは2024年も引き続き底堅く推移しています2。アジア市場にとって強いドルは逆風となるものの、その影響は過去の景気サイクルに比べて小さなものとなっています。というのも、今日のアジア市場では、国債は主に自国通貨建てで発行されており、為替リスクに対するエクスポージャーが抑えられているためです。また、アジア諸国の多くでは、財政基盤が強化され、債券市場に積極的に関与する国内参加者も増えています。この結果、投資家の層は厚みを増し、海外からの投資資金の流入がもたらすボラティリティの影響も軽減されています。

中国債券の魅力的なリターン

市場の観点から注目を集めているのは、中国の不動産セクターが直面する課題と、経済全体に対するその影響です。一方、こうしたリスクを抑えるために中国政府が様々な支援策やプログラム3を打ち出している点も、指摘しておきたいと思います。このように環境は不透明であるものの、中国のGDP成長率について国際通貨基金(IMF)は、2024年に5%を達成した後、2025年は4.5%に減速すると予想しています4

実際、投資家は中国経済の先行きに関する懸念を背景に、よりリスクが低いとみられる資産への投資を拡大しています。この結果、中国の10年国債利回りは2024年7月初め、2.28%という過去最低水準近くまで低下し、米国10年国債利回り(約4.30%)を大幅に下回りました5

一方、中国人民銀行(中央銀行)が既に発表した計画では、大手金融機関から債券を借り入れ、それを市場で売却することで債券価格に下落圧力をかけ、さらなる利回りの低下を防ぐとしています6。その目的は、イールドカーブの形状を正常に維持し、金融システムの安定性を担保するとともに、市場の流動性を高めることにあるとされています。

地政学的なイベントが引き続き焦点に

今後のアジア債券市場においては、世界的な様々なイベントがもたらす潜在的な影響に注意を払っていきたいと考えています。例えば、11月の米国大統領選挙は将来的な政策の方向性を不透明にするものであり、ボラティリティの上昇につながる可能性があります。また、中東情勢は今のところ比較的局地での紛争に抑えられているものの、これがエスカレートした場合、世界の貿易ルートが混乱する可能性があります。

とはいえ、中国以外のアジア諸国では、米中の貿易摩擦が間接的に恩恵をもたらす可能性があります。例えば、中国本土の企業は、貿易規制の強化からビジネスを守り、欧米企業へのサービス提供を続けていくため、マレーシアに対する投資を進めています。マレーシアのペナン州はそうした地域の1つであり、同地域への2023年の海外直接投資額は128億米ドルにのぼり、2013年から2020年までの合計額を上回ったと報告されています7

グローバル経済との積極的な連動

世界経済がソフトランディングを達成し、インフレも減速するようであれば、アジア市場の大部分にとっての見通しは明るいものとなるでしょう。多様ではあるものの、総じてアジア地域の経済は、貿易や海外投資を通じて、世界の他の地域と積極的に結びついています。こうした経済のダイナミズムはIMFの見通しにも表れており、IMFが4月に公表した世界経済見通しでは2024年のアジア新興・発展途上国について、5.2%という力強いGDP成長率を予想しています8。先行きには依然リスクがあるものの、現地通貨建て債券の投資家にとって、さまざまなセクターや市場にわたって魅力的な投資機会が引き続き豊富に存在していると言えるでしょう。

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