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2025年のアジア債券市場を決定づける要因とは

資産価格の変動に影響を与えるテーマは、金利サイクルだけではありません。2025年を迎え、投資家が考慮すべきその他の動向について探ります。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

昨年、世界の金融政策は徐々に方向転換し、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げに踏み切りました。この動きを受けて、先進国や新興国の他の中央銀行も追随する形となりました。投資の観点からは、借入コストの低下が債券に追い風となるとみられます。

一方、政治に関しては、トランプ次期米国大統領が特定の市場からの輸入品に関税を課すと約束したことが、実行に移されるかどうかが間もなく判明します。中国からの輸入品に60%の関税を課すという選挙戦のレトリックが、具体的な政策に反映されるかどうかはまだ不透明です1 。もしそうなれば中国製品の需要は、急激な価格上昇によって減少するでしょう。中国側の対応としては、意図的な人民元切り下げによって関税の影響を緩和し、米ドルベースで自国製品を安くすることも考えられます2

中国経済の軌道は、アジアにとって重要

世界第2位の経済大国である中国の景気動向は、特にアジアにとって、極めて重要です。中国とASEAN市場間の貿易額は2023年に4,680億米ドルに達し、2022年比10.5%増となりました。また、ASEANは2020年にEUを抜いて中国最大の貿易相手国となりました3。このことは、中国と近隣諸国との間に強い経済的相互関係があることを示しています。

特に、中国の不動産セクターと不動産関連の債務水準は、依然として経済全体の懸念材料となっています。中国政府高官は、土地売却収入の減少によって悪化している地方政府と銀行の債務問題を軽減するために、大規模な資本増強策を発表しました4。需要を刺激するため、中央政府は住宅購入時の頭金比率の下限を15%に引き下げ、その他の取引に関する規則を緩和しました5

不動産セクターの問題は、住宅価格の下落による資産への影響が消費マインドに重くのしかかり、消費を抑え、貯蓄を増やす傾向を強めているため、個人消費に影響を及ぼしています6。しかし、最近のシグナルはより前向きなものとなっており、価格は安定してきています。実際、ロイターの世論調査によると、2026年には上昇する可能性もあります7

中国が自国経済を強化するために講じた措置は「ゲームチェンジャー」と呼ぶには不十分かもしれませんが、目先のリスクを軽減するのに役立つはずです8

地政学的緊張が不確実性の継続を下支え

中東やヨーロッパにおける紛争は、多大な人的犠牲を伴うものですが、冷戦時代に見られたような地政学的なブロック間の競争も反映しています。欧米列強をひとつのブロックと見なし、中国、ロシア、そして新興国がそれ以外のブロックを形成しています。軍事同盟は冷戦時代よりも緩やかなものとなっていますが、ライバルを弱体化させるための代理戦争(および貿易戦争)は依然として行われています。経済面では、遠隔地や小規模な地域で大国を巻き込むような経済的な大混乱が起こる可能性が高まっています。このような動きは不確実性を高め、貿易の流れや成長に影響を与えることになるでしょう9

貿易や地政学的な動きがアジア市場に与える影響は様々です。中国は、米国やその同盟国から、例えば軍事用途に活用される可能性がある先端技術の移転を阻止することを目的とした、半導体産業に対する複数の制限に直面しています10。この政策は中国を対象としたものですが、中国に半導体を輸出している他のアジア市場にも波及する可能性があります 11

とはいえ、「フレンドショアリング」という概念は、一部の地域市場に利益をもたらすかもしれません12。フレンドショアリングとは、国際企業が製造拠点をどこに置くか決定する際に、政治的な連携や同盟関係が重要な要因となることです。

着実な経済成長が、アジア債券のポジティブな見通しを下支え

より前向きに言えば、不確実性は今に始まったことではなく、成長の余地は常に存在します。国際通貨基金(IMF)は2024年10月の世界経済見通しで、2025年の新興アジアおよび発展途上アジア諸国の実質GDP成長率を年率5.0%と予測しました。これには中国とインドは含まれておらず、それぞれ4.5%と6.5%の成長率が見込まれています。対照的に、先進国の2025年の成長率は1.8%と予想されています13。継続的な景気拡大は、金利の低下と相まって、2025年における経済のソフトランディングを支えるはずです14

このように予想される成長は、この地域のファンダメンタルズの改善を示しています。中国の不動産セクターや地政学など懸念材料は確かに存在するものの、 全体的な見通しは依然としてポジティブです。それと同時に、アジア債券は引き続き経済見通しが概ね明るい地域へのエクスポージャーを投資家に提供しています。


 

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