Skip to main content
インサイト

中国債券市場が活況を呈している理由

中国国債市場が2014年以来最高のリターンを記録するなか、投資家が債券に引き付けられる理由を探ります。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

2024年に中国国債市場は2014年以降で最高のリターンを記録し、全体では9%の上昇となりました。このパフォーマンスは主に、景気刺激策により金利が低下するとの期待と、より安全性の高い投資先を求める国内投資家のニーズによるものです。これは、金利が低下するなかで債券利回りが上昇した米国や欧州など他の主要債券市場とは対照的です。

中国債券市場が活況を呈している背景には、不動産業界の問題およびデフレからの脱却に苦しむ経済における投資家の行動という2つの要因があります。この点でも、物価上昇を抑えるために(徐々に低下しているものの)高金利を維持している欧米とは対照的です。

不動産セクターはもはや安全な逃避先ではない

中国では、不動産は主に安定したリターンを生んできたことから、長い間多くの人々にとって人気の高い資産形成手段となってきました。しかし近年では、供給過剰と不動産開発をめぐる債務の問題が不動産価格の下落につながっています。その結果、不動産から損失を被った投資家は支出を減らし「より安全」な貯蓄手段を求めるようになるため、資産形成にマイナスの影響が出ています。実際、不動産セクターの下落により、約18兆米ドルの家計資産が失われたと推定されています。2

そのため、政府は不動産市場を安定させるため幾つかの政策措置を講じました。これらの措置はいずれ不動産セクターの問題を緩和し、現在の高い債券需要を和らげる助けとなるでしょう。直近の経済指標では、業界の安定化または軌道修正が進みつつある暫定的な兆候が見られます。2024年12月に中国4大都市の不動産価格が上昇した一方、それに次ぐ70の主要都市では不動産価格の下落率が2023年6月以来、最小となりました。3

経済は成長しているもののデフレは脅威

中国は2024年に、好調な輸出部門を主な原動力に5%のGDP成長を達成しました。4 中国の政策当局は、輸出と産業の好調によってもたらされた利益を一般消費者に還元しようとしています。とはいえ、民間部門の多くの労働者の賃金が引き下げられるなど、人々の暮らし向きは悪化しています。5 若年層の失業と低水準の社会福祉給付も消費者の信頼感を低下させています。こうした不透明感は消費財需要にマイナスの影響を及ぼし、デフレを促進しています。6

このシナリオでは、消費者が物価の下落を期待するようになり、その結果、消費を先延ばしするという負の連鎖につながる可能性があります。これにより、企業の利益が減少し労働需要が低下するため、所得と経済活動全体が縮小することになります。個人や企業は負債を減らして貯蓄を増やす行動をとる可能性があります。日本は何十年にもわたってこのような環境に耐え、最近になってようやくデフレの罠から抜け出しました。7

中国政府が景気刺激のために国債を発行

中国政府は昨年、数回にわたり超長期国債を発行し、2025年に追加発行を予定しています。これらの国債の満期は20年、30年、50年で8、調達資金は経済需要の喚起に充てられる見通しです。9 支出例としては、空港などの大規模なインフラプロジェクト、および老朽化した設備や消費財のアップグレードや買い替えのために消費者や企業に支給する補助金や助成金が挙げられます。10

将来は、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチにも補助金が支給される見通しです。これらの措置は消費財関連セクターに景気刺激効果をもたらすと思われます。また、中国の公務員給与は引き上げられており、消費支出の増加に寄与する可能性があります。11

他のほとんどの市場とは負の相関関係

中国経済は、金融政策サイクルという点で他の多くの地域とは異なる段階にあり、これは中国の債券市場が他国の債券市場と負の相関関係を示している一因です。もう一つの重要な要因は、中国の債券が主に国内の銀行、年金基金、およびその他金融機関によって長期保有されていることです。これが、中国では債券が活況を呈しているものの、他のほとんどの市場では下落している一因と考えられます。

注目すべき点として、債券投資家はさらなる利下げを予想しており、これは現在の債券の魅力度を高める要因となるでしょう。機関投資家の観点からは、ファンドマネジャーはこうした負の相関関係がもたらす分散効果を高く評価すると思われます。将来的には、いずれかの段階で中国の景気と金融政策のサイクルが世界の他の国々と交わる可能性があり、債券市場のパフォーマンスも、その時点で同様のものになることが予想されます。

中国人民銀行(PBOC)は景気支援のために金融政策を緩和する一方で、債券相場の上昇を抑え、通貨を比較的安定的に保とうとしています。12 このバランスを取るのは難しいことですが、政策当局にはその実現のために活用できる手段があります。政府は最近、不正を働いた債券の機関投資家に制裁を与え、債券ブームを助長する行為を取り締まる姿勢を示しました。13

米国の関税と政策は大きな不確実性要因

トランプ政権が打ち出す政策スタンスは、金利とひいては米債券利回りの行方を左右すると思われます。関税とリフレ政策によって米金利が長期にわたって高止まりし、米ドル高が強まる可能性があります。これは、東南アジア諸国が利下げによって金融緩和策を打ち出すペースを遅らせることになると思われます。東南アジア諸国間にはインフレ圧力と国内情勢には大きな隔たりがあるため、すべての国々が金融政策を緩和できるわけではありません。

トランプ大統領は、中国に警告したように、特定の国・地域を標的とする関税引き上げを導入する可能性があります。そうなった場合には、影響を受ける市場は投資家心理の悪化と経済的に深刻な影響に見舞われる可能性があります。

中国の債券ブームは間接的に東南アジアに影響

東南アジアの債券市場の多くは米国とよく似た状況にあり、金融政策のサイクルという点で中国とは異なる段階にあります。金利低下に伴い、ほとんどの東南アジア諸国では現地通貨建て債券が投資家にとってより魅力的となる可能性があります。とはいえ、東南アジアにとって中国経済のパフォーマンスは幅広い貿易と投資の協力関係から非常に重要です。そのため、中国がデフレ危機から無事に脱却できるかどうかは極めて重要です。

Related Articles