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対照的なアジアの国債利回り環境に対応する

アジア全域で国債利回りが上昇していますが、その水準は一様に高いではありません。この地域の経済的背景 を詳しく見てみましょう。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

アジア全域を見渡すと、国債利回りには大きなばらつきがありますが、地域の多様性を考えたら意外なことではありません。概して大半の市場で国債利回りは、過去数年間よりも高くなっています。

最終的に、国債利回りを決めるのは投資家の需要です。投資家の需要は、その国の経済に対する見通しや、今後どのような金融政策が取られるかという予想に影響されます。外的要因も重要な役割を果たしますが、中国や日本のような経済大国は、ある程度、政策運営に関して独自の方針を打ち出すことができます。

アジアの国債利回りが全体的に上昇している背景には、中央銀行がインフレを抑制し、自国通貨を過度の下落から守るために利上げを実施したことがあります。しかし、前述の通り、状況は一様ではなく、韓国とシンガポールは金利を据え置いています。その一方で、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンはいずれも金融引き締めを行い、借入コストを引き上げています1

しかし、中国とベトナムの国債利回りはトレンドに逆行して低下しています2。どちらの国も、問題を抱える不動産セクターを支援しようとする取り組みが一因となっています3。また、ディスインフレを受けて、投資家が国債に相対的な安全性を求めていることも、利回りの低下に寄与しています4

中国はデフレに向かっているのか?

多くの評論家が、2024年の中国経済と1990年代の日本経済の類似性を指摘しています。当時の日本は、需要の減退に伴うデフレスパイラルに陥っていました。その背景には、不動産バブルの崩壊、債務超過、人口動態の見通し悪化がありました5。米国との貿易摩擦も1990年代の日本に悪影響を及ぼしており、現在の中国の状況と似ています。1990年代の日本では、消費者が物価の下落を見越して買い控えが起きていました。こうした買い控えの影響は、需要のさらなる冷え込みにつながりました。

似たようなシナリオが中国でも起きており、企業は顧客を引き付けるために価格を引き下げています6。その結果、2024年1月の消費者物価指数は前年同月比0.8%下落し、14年ぶりの大幅な下落となりました7

中国債券市場は、長期の国内投資家が大半

中国も、問題を抱える不動産開発セクターと国内経済の低迷に苦しんでいます8。当時の日本も現在の中国も、債務のGDP比は比較的高く、債務の大部分は自国通貨建てで、国内で保有されています。これは、外国人投資家が一斉に資金を引き揚げるという状況が、起こりにくいことを意味します。

高齢化が進む中国

中国と日本には類似点も多くありますが、明らかな相違点もあります。大きな違いの1つは、当時の日本は、現在の中国よりも相対的に(国民1人当たりベースで)裕福でした。「日本は老いる前に豊かになった」というコメントがありますが、これはその違いを端的に表しています9。中国では高齢化と少子化が進んでおり、経済的動揺を最小限に抑えつつ、落ち着いたペースの経済成長へ移行するためのクッションが少ないことを意味します10

経済を支える多様な政策手段

このような不透明な背景にもかかわらず、考慮すべきプラスの要因もあります。最も特筆すべきものとして、中国政府には自由に実施できるさまざまな政策手段があり、アジアの他の小規模な国と比較して、はるかに経済を下支えする余裕があります。

例えば、中国政府は景気刺激策や財政措置を講じて、経済強化を図ってきました。これらの対策には、5年物ローンプライムレート(LPR)の引き下げや、銀行の貸出増加を可能にする預金準備率の引き下げ11などが含まれます。当局はまた、担保付き補完貸し出し(PSL)と呼ばれる仕組みを通じて、政策銀行に低金利の融資を提供しています12

2024年のアジア債券見通し

相対的に魅力的な利回りと、多くの国における底堅い輸出実績が魅力となり、アジア債券にはここ数カ月の間に外国人投資家から大量の資金が流入しています13。年内の利下げペースと利下げ幅に関する米連邦準備制度理事会(FRB)の動向は、アジアの債券利回りの行方に大きな役割を果たすと思われます14。FRBが実際に利下げを行えば、アジア各国の中央銀行も自国政策金利の引き下げに動く可能性があります。

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