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米国の政策はアジア債券市場にどう影響するのか?

米国の関税政策の変更は、アジアの貿易パターンと債券市場に混乱をもたらす可能性があります。より詳しく理解するため、米国の新政権の行動について掘り下げていきます。

Asia Pacific Head of Fixed Income, Head of SSGA Singapore

米国の関税政策の影響を測る一つの方法は、対米輸出がGDPに占める比率を見ることです。この比率に基づくと、ベトナム、台湾、およびタイは例えばインドやインドネシアよりも影響を受けやすいとみられます1。関税の影響は間接的に及ぼすため、カナダとメキシコへの課税は、北米サプライチェーンの一部となっているアジア諸国にも影響を及ぼすと考えられます。その例として、マレーシアや韓国が挙げられます2。その流れから、最近シンガポールの貿易担当相は、貿易戦争の波及的な影響がサプライチェーンに混乱をきたし、地域の貿易と投資の流れを停滞させる可能性があると警告しました3

一部の国々が相互関税を発表

米国が鉄鋼・アルミニウム輸入に25%の関税を課した際、カナダは同じく鉄鋼・アルミニウムに25%の報復関税を課し、コンピュータ関連とスポーツ用品に追加関税を課すと発表しました4。オーストラリアなど他の国々は、消費財のコスト上昇がインフレを煽ることになるとして、報復措置を見送っています5

一方、中国は、米国が中国からの輸入品に20%の一律関税を課すことに対抗して、大豆や木材など様々な米国産農産物に15%の関税を課すことを決定しています。中国はまた、国内経済を保護するため、米国外の市場から調達できる品目を特定しています6

中国の行動は、貿易戦争をエスカレートさせないよう配慮したものとみられます。中国当局は、対等な関税を課すことから生じる国内外の課題に対処するために取るべき財政手段はあると確信しているようです7

金利低下がアジアの中央銀行により大きな柔軟性をもたらす

アジアの各中央銀行にとって、国内経済を活性化させるために利下げを行なう余地が広がっています。さらに、各中銀は、借入コストの低下が自国の通貨価値に悪影響を及ぼすリスクに懸念を抱いてないようです。インドネシア中銀は、経済成長が予想より弱いこと、および2026年のインフレ見通しが低水準であることを根拠に、2025年1月に利下げに踏み切りました8。同様に、韓国中銀は国内景気を下支えするために利下げを開始しています9

米国ではグリーンボンドの発行が減少する見込み

関税の他にトランプ政権が進めるもう一つの動きは、環境保護措置の撤回と石炭・石油関連産業を後押しする政策の導入です。結果として、サステナビリティボンドとグリーンボンドの発行が減少する可能性があります10。トランプ大統領は選挙期間中の公約通りパリ協定から離脱しており、これも米国における環境関連債券の販売を停滞させる要因となるかもしれません11

より身近なところでは、グリーンボンドは中国の国内投資家の間で人気を博しており、同国では2024年第3四半期に191億4千万米ドル相当のグリーンボンドが発行されたのに対し、同期間の米国における発行額は174億9千万米ドルでした。欧州では、金利低下によりグリーンボンドの発行コストが低下し、グリーンボンド市場の活性化に寄与すると思われます12

アジアにおけるサステナビリティボンドの可能性

中国と多くのアジア諸国は引き続きサステナビリティボンド市場の発展に尽力しているため、世界全体の発行額が極端に減ることはないかもしれません。実際、中国は最近、欧州の投資家を呼び込むべく人民元建てグリーンソブリン債をロンドンで発行する計画を発表しました13。さらに、米国のグリーンボンド市場が縮小した場合、世界の投資家はエシカルな金融商品の調達先としてアジアに目を向ける可能性があるため、同地域に有利に働くかもしれません。

市場の不透明感にもかかわらずアジア債券が活況となろう

トランプ大統領の当選を受けて、アジアのほとんどの債券市場で外国人投資家の資金流出が見られました14。これは主に、関税政策の実施をめぐる不透明感や米ドル相場の急騰に対して反応したものです。貿易関税はインフレを下支えする可能性もあるため、米連邦準備制度理事会(FRB)は物価上昇が引き続き抑制されるよう、利下げのペースを緩めるものと思われます15

こうした潜在的な逆風にもかかわらず、アジアの現地通貨建て債券は世界的な金利低下から恩恵を受け、政府や企業の債券発行コストは低下するはずです。それと同時に、中国をはじめとするアジア各国当局による国内景気浮揚策も現地の債券市場を下支えするものと思われます16

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