2025年のアジアの経済成長率は4%を超えると予想されています。こうした見通しを踏まえ、アジアの現地通貨建て債券市場がその他の地域と比較して、どのような位置づけにあるか見てみましょう。
国際通貨基金(IMF)が2024年4月に公表した世界経済見通し1は、緩やかながらも安定的なグローバル経済の成長を予想しています。なかでもアジア経済の見通しは明るく、他の先進国や新興国よりも速いペースでの成長が見込まれています。
こうした比較的明るい見通しの一方で、アジアには潜在的な課題もまだいくつかあります。例えば、中国の不動産セクターは依然として問題を抱えており、中国経済とグローバル経済とのつながりがさらに強まる中、IMFは他のアジア諸国やさらにその先への「波及」リスクを指摘しています2。
欧州中央銀行(ECB)とカナダ銀行(中央銀行)は2024年6月初め、政策金利を引き下げました3。こうした利下げの動きは他の先進国にも広がりそうな勢いであり4、いずれは新興国の中央銀行においても、借入コストを引き下げる余地が拡大する可能性があります。
一方、米国経済は相対的に高い金利にもかかわらず、堅調を維持しています。米連邦準備制度理事会(FRB)はいまのところ、許容できる水準にインフレが落ち着けば、2024年後半に利下げを開始すると予想されています5。
アジア開発銀行の報告書によれば、現地通貨建て債券市場が成長した国では、外貨建て債券への依存度が低下したことが分かっています。実際、東アジア新興国の現地通貨建て債券市場の規模は、2000年の8,660億米ドル相当から2022年末には23兆2,000億米ドル相当にまで拡大しています6。また、同じ時期に債券の平均残存年数やテナー(満期)が延びたことも、最近の金融危機(新型コロナのパンデミックやより最近では米国の金融政策など)において、為替レートの変動を抑える結果につながりました。
健全な現地通建て債券市場は、投資家層の多様化に寄与します。それはまた、「安全への逃避」というシナリオの下で、海外投資家が外貨建て債券を売却することで引き起こされる流動性の不足に対しても、バッファーを提供することができます7。
報告書はさらに金融の安定を実現するには、その他の要素も不可欠だと明確に述べており、適切な財政・金融政策、十分な外貨準備、そしてインフレの抑制が求められるとしています。
アジアと他の地域を比較する場合、良い例となるのが中南米およびカリブ海諸国(LAC)です。2023年は同地域の存在感が大幅に高まり、2022年はわずか8%であった国際債券発行に占める現地通貨建てLAC債券のシェアが19.5%にまで上昇しました8。
LACにおける発行額の上位3か国はブラジル、チリ、メキシコであり、実際に最近では、ブラジルに代わってメキシコが中南米最大の現地通貨建て債券市場となりました9。現地通貨建て債券の発行が増えることで、アジア市場の一部で見られるように、為替の変動が抑えられる可能性があります。
中南米はまた、経済の主な原動力という点でも、比較的幅広い多様性を有しています。チリなどのように鉱業が重要な役割を担っている市場がある一方10、ブラジルでは農業がより中心的な産業となっています11。アジア諸国と同じように中南米の国々にも、投資家の属性や発行体、さらには市場の慣行において、それぞれ独自の特徴があります。
ブラジルではここ数か月で、S&Pとムーディーズによるソブリン格付けの引き上げがありました12。こうした格上げの理由は、財政再建の進捗やブラジル中央銀行の独立性を高める動きなど、主に経済状況の構造的な改善によるものとなっています13。
対照的にアルゼンチンでは2024年3月、国内債のスワップ(交換)入札が不評に終わり、S&Pによる格付けの引き下げがありました14。同国が2020年5月に国際債券のデフォルトを起こしたことも、マイナスに働いた可能性があります15。
IMFが2024年4月に公表したアジア太平洋地域の経済見通しによれば、同地域の2023年の経済成長率は5.0%に達したとのことです。IMFの予測では、2025年の実質GDP成長率は先進国が1.8%、アジア新興国が4.2%、その他ではLACがより緩やかな2.5%となっています。IMFはまた、先進国が新興国よりも早くインフレ目標を達成するとみる一方、コアインフレ率の低下はより緩やかなペースにとどまる可能性が高いとみています16。
以上を総合すると、絶えず進化を続け、多様性に富んだアジア現地通貨建て債券市場は、世界で最もダイナミックな地域のひとつであるアジアで、通貨と市場の分散を図りたい投資家にとって、メリットをもたらす可能性があるとみられます。