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アジア太平洋地域のグリーンボンド: 短期的には要警戒だが長期的には有望

最近の調査によると、アジア太平洋(APAC)地域の資産運用会社やアセットオーナーの間ではグリーンボンドへの投資意欲が後退していることがうかがえます。とはいえ、地域全体で各政府は引き続きサステナビリティ目標を優先課題としており、グリーンボンドの長期的見通しは明るさを維持しています。

ABF汎アジア債券インデックス・ファンド(PAIF)は2024年2月に600におよぶ資産運用会社/アセットオーナーを対象に調査を実施しました。それによると、グリーンボンドへの投資が優先事項であるとの回答は全体の43%と、1年前の51%から低下しており、12ヵ月後の予想も44%とわずかな上昇にとどまっています。グリーンボンドを売却する意向であるとの回答は、1年前の12%から現在は22%、12ヵ月後は33%に上昇しています。

この投資意欲後退の背景にはいくつかの理由があります。第一に、この1年で「グリーンウォッシング」がメディアで多く取り上げられ、一部の資産運用会社/アセットオーナーがグリーンボンドの積み増しに消極的になっていることがあげられます。加えて、多くの国・地域が独自のグリーンタクソノミー(環境的に持続可能な経済活動かを分類・定義)や基準を策定しているため、投資家が個々のグリーンボンドの適格性を比較し、投資対象として評価することが難しくなっています。ただし業界では、こうした問題は市場が発展する過程で生じる一時的な混乱にすぎないとの見方が主流を占めています。

「ここに欠けているのは、標準化されたスコアリング手法です」。BNPパリバ・アセットマネジメントの新興国市場債券部門の責任者、Alaa Bushehri氏はこう指摘し、次のように続けています。「ラベル付けされた債券発行の枠組みは、透明性向上につながるため必ず役立ちます。今後、そうした枠組みの整備が進むとみています」。

アジア太平洋地域のグリーンボンド発行額(資金使途別、10億米ドル)

APAC Green Bonds Fig1

第二に、アジア太平洋地域のグリーン、ソーシャル、サステナビリティ(GSS)ボンド市場は、過去10年間で爆発的に成長しました。資産運用会社ロベコは最近のレポートで1、アジア太平洋地域のGSS債発行額は2024年までの3年間で大幅に増加し、2020年から2021年だけでも発行額は3倍超に増加したと指摘しています。

中国の場合、気候債券イニシアティブによると同国のオンショアおよびオフショア市場では、2023年に1,310億米ドル(940兆人民元)のグリーンボンドが起債されました2。これにより、中国のグリーンボンド発行額は2年連続で世界1位となりました。

アジア太平洋のグリーンボンドに対する関心は、国・地域によってまちまち

PAIFの調査によるとアジア太平洋の資産運用会社/アセットオーナーのグリーンボンド投資に対する姿勢は、国・地域によって対照的であることが明らかとなりました。回答者の現在の考えと、12ヵ月前ならびに12ヵ月後にどう変化しているかの予想を比べたところ、シンガポール(時系列順に69%、40%、33%)と韓国(同43%、37%、29%)では、時間の経過とともに明らかに関心が薄れていることがわかります。

これに対して中国では、この間にグリーンボンドへの関心が43%から46%に、そして61%へと高まっています。日本に拠点を置く資産運用会社/アセットオーナーの関心も全般的に上昇基調にあり、12ヵ月前の39%から現在は38%に若干低下していますが、12ヵ月後の予想では44%に上昇しています。

この期間の資産運用会社/アセットオーナーのグリーンボンド売却意向の動向も、国・地域によって大きく異なることが明らかになりました。最も変化が大きかったのはシンガポールと韓国です。シンガポールではグリーンボンドを売却する意向だと回答した資産運用会社/アセットオーナーの割合はこの間に、7%から15%、そして42%に上昇しています。韓国ではこの数値は18%、37%、51%となっています。しかし、それに比べて中国に拠点を置く資産運用会社/アセットオーナーはグリーンボンド保有に熱心なようで、売却する意向があるとの回答は12ヵ月前の11%から20%に上昇した後、12ヵ月後は18%に低下しています。日本では、この数値は21%から30%に上昇した後、31%で安定しています。

注目したいのは、こうした売却意向の背景です。一部の資産運用会社/アセットオーナーは、たとえば金利やインフレの見通しの変更に伴い、投資戦略に沿ってポートフォリオのリバランスを実施しようと考えて、売却の意向を示している可能性があります。

このようにグリーンボンドへの関心は弱まりつつあるものの、アジア太平洋地域の資産運用会社/アセットオーナーの中にはグリーンボンド市場の発展を支持する声も多く(回答者の19%)、また17%はグリーンボンドが伝統的な債券をアウトパフォームするとの予想を理由に投資を継続していると回答しています。一方、15%は税制上の扱いが有利なことを魅力にあげています。

グリーンボンド市場の発展を支えたいという気持ちが特に強いのは中国(28%)、次いでオーストラリア(18%)でした。中国でグリーンボンドへの関心が持続している背景には、おそらく同国の金利低下(それに伴う利回り追求の動き)に加え、政府がしっかりとしたグリーンボンド支援策を打ち出していることがあげられます。

市場の発展を支えたいという意欲が最も低かったのはシンガポール(12%)でした。しかし、リターン向上戦略としてグリーンボンドに投資しているとの回答が最も多かったのはシンガポール(28%)、次いでオーストラリア(25%)です。つまり、こうした地域の資産運用会社/アセットオーナーは、現時点ではグリーンボンドに慎重であるものの、著しく高いリターンが期待できるなら考えを変える可能性もあるということです。

ただし、高リターンの可能性を投資の動機だとする回答は、日本を拠点とする資産運用会社/アセットオーナーでは10%にとどまり、韓国では12%でした。税制面での有利な扱いを重要だと考えている資産運用会社/アセットオーナーの割合は、中国が18%、オーストラリアが20%でした。

代表的なグリーンボンド発行事例

香港は2018年から2019年にかけて実施した政府のグリーンボンド・プログラムの一環として、
10億米ドルのグリーンボンドを発行しました。

表面利率: 3.8% 固定金利
償還期限: 02/07/2026

資金使途:
1) 廃棄物管理および資源回収
2) グリーンビルディング
3) 水および排水管理
4) エネルギー効率と省エネ
5) 汚染防止と管理
6) 気候変動対策

GSS債市場が成長の過程で初期の苦難を経験することは避けられませんが、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを開始すれば、債券全般、特にグリーンボンドの需要が拡大する可能性は高いでしょう。

グリーン、ソーシャル、サステナブル、サステナビリティ・リンク債(GSSSB)の持続可能な未来

アジア諸国は大気汚染防止、二酸化炭素排出量の削減、国民や市民に対する社会的支援の拡充を目指しているため、アジア太平洋地域では今後もGSS債市場 ―― したがってその発行 ―― は成長・進化し続けるでしょう。

こうしたなか、債券資産運用会社/アセットオーナーの間では、投資戦略にサステナビリティ要因を組み込む動きも見られます。「サステナビリティの側面はこうした債券の魅力の幅を広げ、新たな投資家層を取り込むのに役立つ可能性があります。とはいえ、アジアにおけるグリーンボンドやソーシャルボンドの発行は、まだ初期段階にあります」。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのETF投資ストラテジスト、Marie Tsangはこう述べています。

S&Pグローバル・レーティングスは今年のサステナブルボンドの発行額は3グリーンボンドを含め、2023年と比べて10%増の2,600億米ドルに達する可能性があると予想しています。S&Pは韓国、日本、中国がグリーン、ソーシャル、サステナビリティ、サステナビリティ・リンク債(GSSSB)の75%を占めるとみています。さらに、同社の予想によるとアジア太平洋地域のGSSSB発行の70%前後を現地通貨建て債券が占めます。発行体タイプ別では、公共セクターの発行体が昨年(55%増)に続き、今年もGSSSBを活発に発行すると予想しています。

全体としては、アジア太平洋地域の資産運用会社/アセットオーナーの一部ではグリーンボンドへの投資意欲が後退しているものの、この地域で依然として実りある見通しを示す兆候が見られます。

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